青ちゃんのプライベート暮らし

日本第2位北岳縦走7月26日(水)から29日(土)

序章

昨年秋、鳳凰三山縦走で、白峰三山を眺めた時に、日本第2位 4位の3000㍍縦走路に心ときめいた。また、33年前に妻と北岳をテント泊しながら登った事もよみがえってきて、来年は、子ども達と登りたいと考えての、今回の山行き。

大地の登山、いや青ちゃんの登山は、テント泊のみ。山小屋は、緊急避難先としてのイメージで、非日常の山の世界に、生きる暮らしの道具を背中に背負い、その重さを感じながら、テントという空間で、暮らしている実感を味わうことに魅力を感じる。重いザックは、登山速度や行動を弱めるが、様々な気づきや自分を見つめる時間、風景、汗、呼吸、息づかい、何よりも、生きている実感を感じる瞬間。特に、急坂を登る時、細胞が、心が元気だ、そして、生きていくぞという、意気込みを再認識出来る。

我が子4人のうち、3人は山小屋で働いていた。そのお陰で、登山人生35年のうち、2泊(2回)のみ、山小屋に泊まった(昨年)経験がある。快適であり、一度体験したらやめられない自分になりそうで怖かった。重い荷物を背負う事から避ける自分を感じるのが嫌だった。我が子達も、その仕事以外では、親とは山小屋宿泊体験はないと思う。その親の方針は、ホームページ童 今年6月号参照。

妻との登山も、いつかは、ゆったりと山小屋に泊まりながらの贅沢な登山をしようと言いながら、10年以上過ぎ、2人でまもなく60代に突入しようとしているが、まだまだいけると言いながら、テントを手放さない夫婦である。(妻は、ゆったりと登山をしたいだろうが、気ままに山を感じ、テント内や星空の元で、絵はがきをしたためたり、お茶を飲んだり、お話をしたりする暮らしを、まんざらではないと感じていると、思っている)

今回の北岳縦走、妻も35年前と変わらずに、重い荷物と思い出と暮らしを背負い、子ども達と一緒に登った。それぞれ、参加者、大人も子ども達も、日常の暮らし道具を自分の背中に責任を持って背負い、ずっしりした生きる実感を味わいながらのテント泊縦走が始まった。

7月26日(水)

ここ数日の雨。明け方まで豪雨が続いていたが、今朝になり奇跡的に雨が止んだ。天気予報は、明日から回復に向かうと情報。やはり、ついているという自己満足で、5歳の年中児を含め、総勢8名のパーティが、北岳に出発。それぞれの荷物を背負う姿が凜々しい。大人も子どももハンディがない対等でのすさまじい意気込みの中、11時登山開始。今日は、白根御池小屋までの3時間の行程。今にも降りそうな気配の中、3時間の行程と言っても、さすが3000㍍登山だけに、汗は噴き出る急登の連続。いつもそうだが、登り始めての最初の1時間は、背中の荷物の重さへの恨みや山小屋泊まりの人たちの荷物にうらやましさを感じる時間帯。どうして、いつも自分は、これなんだろうと感じる瞬間。でも、1時間もたつと、当たり前になり、気ままに星空の元でテントを張る自分をイメージしてニヤニヤしてしまう活力に変わる。午後2時テント場着。テントを張り、夕食準備の瞬間から、雨が振り出したが、予想していたことだったので、山小屋の軒先や炊事場を借りて過ごす。登山では、雨が降っても、登山者はいつも明るく、特に食事時は、雨を気にせず、会話が弾んでいる。雨に濡れ、カッパでびしょびしょになりながらも明るく食べている姿が日常的だ。そうでなくては、自然の中でのテント泊など楽しめないだろう。我が野外教室の子ども達も同様、雨を気にすることなく、昨日大地で採れた夏野菜を使って作ってきたカレーを、雨の中味わいながら盛り上がり、午後6時半、テントに入り就寝。明日の好天を祈りながら。

7月27日(木)

  夜中中、テントに響く雨の音。5歳児を含めての3000㍍テント泊登山の悪天候時の不安と恐怖と責任感の中、眠れずに何度もルート確認と日程変更を考えながら朝を迎えた。朝3時半、雨が止み、奇跡のように、三日月と金星、そして星達を発見。昨夜の不安が吹き飛び、すぐに予定通り行動開始。4時起床。暗闇の中、朝食のラーメンを作り、テント撤収をして、5時過ぎ、登山開始。今日は、標高差500㍍を大人でも3時間かけて直登する最大のクライマックスルート草すべりと呼ばれる難関ルート。時折、青空が広がり、心ときめくが・・・しかし、何と天気が気まぐれか。降ったり止んだりの気ままな天候に左右されながら、登っては休み、雨具を着ては脱いでの繰り返し。美しいお花や恐ろしい山ヒルに遭遇しながら、ようやく2800㍍の稜線にたどり着いた。そこからいよいよ3000㍍の世界が始まるガレ場の登り。奮闘すること1時間、午前11時、3000㍍のキャンプ地、北岳肩の小屋到着。テントを設営し、ホットサンドの昼食。ここから、テント泊の気ままな夢のような3000㍍の暮らしが始まる。昼寝をしたりトランプをしたり、散歩したり。ここでも、次第に天気が怪しくなり、不安定な天気となる。霧雨になったりガスったり。それでも、夕食時は雨が止み、まあこの天気は仕方ないかと諦めながら、自宅でそれぞれ用意してきた乾燥米(今回は、お米は全て自家製の乾燥米や味噌玉を用意した)、味噌汁、漬物、海苔やキュウリ、缶詰などの豪華な夕食。夕食後、ぐずついた天気に諦めて、テントに入ろうとした瞬間、雲が動き青空が出現。太陽が顔を出す。その瞬間、3000㍍の見事な世界が現れた。北岳の稜線、ブロッケン現象、その瞬間、山小屋を中心にいる人々の世界が変わった。皆、驚きと感激とうれしさ、歓声が上がり、登ってきた登山者達との一体感を痛感した。夕焼けの素晴らしさ、更に、夜中の山頂から伸びる天の川、満点の星、数々の流れ星。その美しさに酔いながらも、何か安心できない天候の不安を感じながら、眠れない夜を過ごした。

7月28日(金)

幸運な夜明け。暗い中、4時起床。朝ぼらけの中、富士山の姿を見つけ歓声をあげる。3000㍍の世界に酔いしれる。4時半、朝食用の食パンだけをリュックに入れ、ほぼ空身で、いよいよ日本第2位の北岳山頂を目指す。岩場の急登を登る途中に、日の出を拝む。午前5時40分。標高3193㍍北岳山頂全員登頂成功!! 富士山、鳳凰三山、仙仗岳、甲斐駒ヶ岳 、八ヶ岳 雲海など、全てが見渡せる瞬間。後にも先にも、今回の縦走で、最高に晴れ渡った瞬間であった。その後、夢の3000㍍縦走を堪能したが、午前9時過ぎからは、再びガスに包まれた。日本第4位の間ノ岳縦走は、ガスと雷注意報と、3000㍍の高所での息苦しさを訴える子ども達の安全を考え、ユウスケさんに代表で登ってもらい、子ども達は、再び北岳山頂を越えて、テント場へ戻った。再び、3000㍍の夢のテント場で、雪渓で遊んだり、昼寝をしたり、お茶タイムを楽しんだり、絵はがきを書いたりして、気ままに過ごした。時折、天気が回復したりするが、昨日のような天気にはならなかった。が、今日は、幸運な天気に恵まれたことに感謝して、午後6時半就寝。久しぶりにぐっすり眠れた。

 

7月29日(土)

夜半、テントを打つ雨音に目覚める。不安的中、雨の中の下山か。5歳児を連れての3000㍍からの標高差1200㍍を一気に下る下山に恐怖を怯えながら、ひたすらテントの中で、無事に下山するイメージを持って祈る。朝4時、テント内で食パンサンドイッチを頬張り、カッパを着て下山準備、テント撤収。午前4時50分、下山開始。雨はしとしと降るが、強くはならない。今回の参加者は、2年前に土砂降りの蝶ガ岳登山を体験して、しかも大学時代に北岳も登頂しているワンゲル出身者のお母さんだけに(母親と子ども3人で参加!!)、気合いが入っている。雨が強くならずに安心して、足下に注意しながら、元気に下山。年中児をはじめ、子ども達の力は、メルヘンとファンタジー、気持ちだけで90パーセント以上発揮されるだけに、皆で不思議な会話で盛り上げながら、7時20分、一昨日の最初のキャンプ地、白根御池に無事下山。霧雨の中、暖かいラーメン、餅、コーンスープ パンをゆっくりと味わい、後半の下山に備える。青ちゃんは、5歳児と共に歩き、その後ろにアシスタントとして、今や青ちゃんの片腕になるぐらいの経験豊富な小4のユウスケさんの子どもが寄り添い盛り立ててくれる。大人でも子どもでも、やはり原体験が人を大きく育て、自信と誇りと責任感、そして信頼を生み出す。そんな小4のお陰で、無事10時10分、5歳児は下山。続いて、10時半、全員無事下山。

不安定な天気に惑わされた行程ではあったが、やはり思いは通じ、自然の移ろいを十分感じ、祈りが通じ、素晴らしい劇的な天候に恵まれた登山となった。きっと山小屋泊だったら、不安や恐怖も半減して熟睡出来たであろう。でも、やはり、次回もテント泊を選ぶだろう。特に子ども達とだったら。あの気まま自由な、そして生きる暮らす世界が。そして、何よりも、背中に背負う感じる重さが、自分に何かを背負わす実感が。

 

今回の参加者。母一人で、年中 小2 小6を引き連れての家族。ワンゲル出身と言えども、青ちゃん同様のザックを背負い、終始笑顔でどんな場面でも安定して前向きに、しかも子ども達に冷静に声一つ荒げずに明るく対応している暖かい母親の姿勢に心打たれた。その思いが、安心安全な登山の力となった。やはり、母は偉大だ。

そして、野外教室スタッフのユウスケ親子。気力体力充実しており、安心してリスク対応信頼出来、ユーモアとセンスに富み、必ず何でもやってくれる。その裏では、冷静な判断と眼があり、深い思慮と誠実な心、才覚が備えられているだけに、青ちゃんの暴走を、そして、沈着冷静にアドバイスしてくれ、参加者達が、安心安全、そして、ユーモア溢れる大地野外教室の味わいを演出してくれる。それが、親子共々であるから素晴らしい。感謝

 

更に、33年ぶりに一緒に登った妻、ノンタン母さん。まさに、青ちゃんがウサギなら、妻はかめ。ゆっくりマイペースで一歩一歩登るスタイル。沈着冷静で普段の暮らし同様のスタイルは登山でも変わりなし。しかし、心の奥底では、一歩一歩の地道な努力、ひたむきな誠実な努力が、必ず実を結ぶと堅く信じて、その火がいつも熱く燃えている。ゆっくり花々を見て感じ、テント場では、必ず絵はがきを買い、持参した大切なお友達住所録リストを広げ、山からの思いをしたためて書いている。やはり、母、女性は、大地の母であり、自然を包み込む母であることを感じさせる。そんな、穏やかな偉大な心のお陰で、子ども達は幸せだっただろう。